「さっきも同じところで間違えたでしょ?」
レッスン中に、つい保護者がこの言葉をぼやいているのを耳にすることがあります。もしかすると、ご自宅で練習している時にも口にしているのかも。
しかし、子どもが何度もつまずくのは、やる気がないからではありません。 実は今、お子さんの脳内では「情報のバトン」を繋ぐための新しい回路を工事中なんです。
ピアノを弾くとき、脳は「見て、動いて、聴く」という凄まじい並列処理をこなしています。何度も間違えるのは、脳が進化しようとして少しだけ渋滞している成長の証とも言えます。
今回は、ピアノの練習によって子どもの脳はどうフル回転しているのか、現場で感じていることをお伝えしたいと思います。 保護者の方が理由を理解すれば、イライラすることも減りますし、子どもも安心して練習できるはず。
少し長くなりますが、お子さんと楽しいピアノライフを過ごすために読んでくださいね。
目次
大人と子ども、脳内では「景色」が違う
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大人の脳は「舗装された高速道路」
たとえ未経験であっても、大人がピアノを弾くときには脳内にすでに「慣れた道」ができています。それは、これまで勉強してきたこと、さまざまな経験から何となく感覚で、「ここがこうだから、きっとこうだろう」と推測しながらある程度弾けてしまったりするのです。
これが楽譜のドの音で、だから鍵盤だとここかな、と分かったりしますよね?大人はピアノ以外の経験から無意識に「ショートカット」ができているので、簡単な内容であれば、それほどエネルギーを使うことなくこなせるのです。
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子どもの脳は「ジャングルを切り開く工事現場」
一方で、子どもの脳内は、未開発の土地です。経験も少なく、論理的思考を今から学んでいく途中にあります。 「音符を見る → 指を動かす → 音を聴く」というバトンリレーを、毎回「えっと、次はどっち?」と確認しながら進んでいる状態です。
ここで、多くのお母様が不思議に思う「脳内あべこべ現象」が起こります。
「右=高い」は、当たり前じゃない? 大人は「楽譜が上に上がれば、鍵盤は右(高い方)へ」と反射的に理解していますが、これは経験による脳の高度な翻訳の結果なんです。
小さな子どもの場合、楽譜を右へ読み進める「横の動き」につられて、音が下がっているのに指が右へ進んでしまう……ということがよく起こります。上がって下がるだけの形なのに、元に戻る、というのがなかなか理解できないこの「脳内あべこべ」は、一般的には2歳から7歳頃までの時期に見られるとされています。
8歳以降になると、空間認識が安定し、「右=高、左=低」のルールを無意識に処理できるようになると、私も幼児期のレッスンセミナーで習い、そんなものか、、、と思っていましたが、実際20年以上の指導で実感しているところです。
「ミス」は脳がフル回転している証拠
こうした大人と子どもの理解の仕方、ピアノ以外での経験の有無などによって、大人では当たり前のことでも、子どもにとっては、一つ一つ、大変なことだったりします。
つまり子どもにとってのミスは、道に迷ったのではなく「新しい道を通れるか試している証拠」。大人よりも何倍ものエネルギーを使い、脳がフル回転しているからこそ、ミスが起きていると考えられます。
もし小学校低学年までのお子様が迷っていても、それは「脳の成長」のプロセス。決して理解力が足りないわけではないので、安心してくださいね。むしろ、ピアノの楽譜を読み、指を動かすことで、脳に刺激を与え続けられます。
ピアノが育てる「さまざまな知性」
楽譜は、平面にある情報を空間(音の高さや指の動き)に変換する作業です。それによって、さまざまな影響があると考えられます。
・算数・数学に強くなる: 楽譜は数学で学ぶX軸とY軸ととても似ています。現場で見ていて、楽譜が読めて、特にバッハなどのポリフォニー音楽を上手に理解し演奏できる生徒さんは、理数系に強い傾向があります。小さい頃は保護者も「そうですか?」とおっしゃっていても、進学後に「理数系でした」と伺うことも多いですね。無関係ではないと思います。
・論理的な予測ができる: 「元に戻る」感覚が身につくと、「こうなったら、次はこうなる」「もし逆だったら?」という論理的な予測ができるようになり、国語の読解力などに役立つことも期待できます。
・「あべこべ」が整理される: 幼児期にありがちな「鏡文字(Eなどを反対に書く)」も、脳内で左右・上下の整理整頓ができるようになると、自然と減っていきます。
お母様へお伝えしたいこと
大人と子どもでは、ピアノを学んでいくプロセスが異なります。 私も、指導を始めたばかりの頃は戸惑うことばかりでした。迷って迷って幼児の指導セミナーに通っては、え~まさか!と思っていました(笑)
今では、学ぶプロセスを適切に順序立てていけば、子どもは正直大人よりも抜群に楽譜が読めて弾けるようになることを実感しています。レッスンでは、大人の自分が分かる順序ではなく、子どもに合わせた順序で進めていっています。なので、疑問に持たれることもあるかもしれません。その時は、遠慮なく質問してくださいね!
こういった内容は、保護者の方は知らなくてもよいと思われるかもしれませんが、知識として知っておくだけで「また間違えた!」とぼやくことも減り、保護者のストレスも減るかな、と思い書かせていただきました。
どうか、「あ、今、脳の工事中なんだね」と子どもの成長を見守っていただきたいと思います。


